活性酸素種とそれに対する生体防御

投稿者: | 2014 年 9 月 17 日

通常、酸素というとわれわれヒトを含め、好気呼吸を行う生物にとって無くてはならないものです。酸素がなくては生きられません。ところが、この有用な酸素が時として害をもたらすことがあります。
みなさんは『活性酸素種』という言葉をお聞きしたことはあるでしょうか?その名が示す通り、酸素原子(O)を含む活性化された分子種という意味で、英語ではReactive Oxygen Speciesと書くので、通称ROSと呼ばれています。ROSには、過酸化水素(H2O2)やスーパーオキサイド(・O2-)、ヒドロキシラジカル(・OH)などが知られます。これらは、好気呼吸の電子伝達系で本来二つ電子を受け取るはずの酸素分子が一つしか電子を受け取らなかったり(スーパーオキサイドの産生)、放射線を浴びたときに水分子から電子が一つ飛び出したり(ヒドロキシラジカルの産生)した際に生じます。ROSは反応性が高く、細胞内の構成成分であるDNAやたんぱく質、脂質などを酸化します。それにより、細胞レベルでは、遺伝子の突然変異や細胞死が引き起こされ、個体レベルでは、ガンや神経変性疾患、老化といった様々な、そして大きな影響がもたらされると考えられています。
では、生物はROSによるこれらの害になすがままなのでしょうか?答えは否です。ROSから細胞(ひいては個体)を守るため、生物はROSを直接消去する機構(ROS消去機構)や、ROSにより酸化損傷した細胞構成成分を修復する機構(酸化損傷修復機構)を進化の過程で獲得し、進化させてきました。
現在では、ROS消去機構や酸化損傷修復機構などのROSに対する防御機構について、どのような因子が関与し、それが他の因子とどのように関わり合いながら働いているのかなど、かなり多くの知見が蓄積してきたのですが、未だROSに対する防御に関わりはするものの、その具体的な機能が不明である因子は多く存在しています。私は、そのような因子の一つである、ある遺伝子(仮に遺伝子A)について研究を行っています。その遺伝子Aの個体における機能を解明するため、線虫という細長く、成虫で直径1mm程度の虫を用いて、遺伝子Aが欠損した場合に、成長率や寿命、各種酸化剤に対する耐性がどのように変化するかを測定したり、他のROS防御遺伝子との関わりを調べるため、遺伝子Aに加えて、さらに遺伝子Bを欠損した場合はどうかを調べたりしています。目下、この遺伝子機能を解明することが目標ですが、最終的にはROSに対する防御機構の全体像を明らかにしたいと考えています。

宮路先生